Q 被相続人に複数の相続人がいる場合に,1人の相続人に財産を集中させるにはどうしたらよいでしょうか。
例えば被相続人は長男とともに長年商売を営んでおり,相続財産として自宅の土地,建物,店舗があります。しかし,自宅を建築した際の住宅ローンと営業資金のための金融機関からの借り入れが残っています。相続人としては長男以外にも被相続人の妻と次男,三男がいますが,長男が債務も含めてすべてを引き継ぎたいと言っている場合が考えられます。
長男以外の者全員,すなわち,妻,次男,三男が家庭裁判所で相続放棄の手続きをします。
そうすれば,長男が唯一の相続人となり,債務も含めてすべての相続財産を承継することになります。
〔解説〕
相続財産をすべて一人の相続人に集中させる方法として,その者以外の共同相続人全員が,相続の開始を知ったときから3か月以内に,家庭裁判所に対し,相続放棄の手続きをとる方法があります(民法915条①)。
また,家庭裁判所への相続放棄の申述という手続きをとらなくても,不動産の場合は①遺産分割協議書において当該相続人以外の共同相続人全員の相続分をゼロとする方法,②特別受益者であるとして相続分不存在証明書などの書面を作成し,具体的相続分はないとする方法,③他の共同相続人が当該相続人に対し,自己の相続分を譲渡したことにする方法などにより,相続財産である不動産を当該相続人のみの名義にし,相続分を集中させることが可能となります。
しかし,ここで注意しなければならないことは,相続財産に債務がある場合は,相続が開始すると,各相続人は相続分に応じて,被相続人の財産に関する一切の権利義務を承継するということです(民法896条,898条,899条)。本問のように,相続財産の中に住宅ローン等の金銭債務がある場合,当然に法定相続分に応じた金額をそれぞれが承継することになります(最一小判昭和29年4月8日)。したがって,債務も含めてすべての相続財産を長男に相続させるためには,他の相続人全員が相続放棄の申述手続きを家庭裁判所で行うことが必要です。