Q 私の父は、私を受取人とする3000万円の生命保険を契約しており、先頃亡くなったのですが、弟から、この生命保険金も遺産と同じだから平等に分けるべきだと主張してきました。その言い分は正しいでしょうか。
相続人のうち、特定の者が保険金受取人と指定された場合の生命保険金は相続財産にならず、保険金受取人たる者は固有の財産として保険金を受け取ることができます。ただし、特別な事情がある場合は特別受益の持ち戻しの対象になります。ご相談はこちらへ(リンク)
〔解説〕
被相続人が、自己を被保険者として生命保険契約を締結していた場合、その生命保険金は相続財産となるかは、保険金受取人としてどのような指定がなされているかによります。
(1)受取人が被相続人自身であった場合
観念的には保険金受取請求権は、いったん被相続人帰属し、その後相続にしたがって相続人に帰属すると考えられるため、相続財産であると考えるのが通説的見解です。
(2)受取人が「相続人」と指定されていた場合
特段の事情がない限り、当該生命保険契約は、被保険者死亡のときにおける相続人たるべき者を受取人として指定した「他人ための保険契約」と解されるとして、当該保険金は相続財産とはならず、相続人たるべき者の固有財産になるとされています(最三小判昭和40年2月2日)。この場合、相続人たるべき者が取得する保険金請求権の割合は、法定相続分の割合になります(最二小判平成6年7月18日)。
(3)受取人が相続人のうち特定の者と指定されていた場合
この場合には、(2)と同じく当該保険金は相続財産とはならず、指定された者の固有財産となります(大判昭和11年5月13日)。
したがって、本問の場合には、相続財産ではなく、固有財産であることになり、弟の要求に応じる必要はありません。
ただし、「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らして到底是認することができないほどに著しいものと評価すべき特段の事情が存する場合には、民法903条の類推適用により、当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となると解するのが相当である」とも判示しており例外的に903条の類推定期用によって、持戻しが認められる場合があり得ることになります(最二小決平成16年10月29日)。具体的にどのような場合かについては、同判決では「特段の事情の有無」の判断基準につき「保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率のほか、同居の有無、被相続人の介護等に関する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等」を挙げております。