Q妻が認知症になりました。介護をしていましたが、私も高齢なので疲れてしまいました。妻とは離婚できるのでしょうか。
①妻が強度の認知症に罹患しているときは、「婚姻を継続し難い重大な事由」の一要素として離婚を請求することは可能です。
②ただし、妻に対し、誠実に介護を行ってきているという実績があり、かつ、公的支援制度についても十分調べて、介護を必要とする配偶者の生活が成り立つように手当てしなければ離婚は認められません。
〔解説〕
(1)認知症といっても、その症状はさまざまです。軽度のものから「意思能力」をうしなうほど重症なものまで広範囲です。少し話していると十分正常に思われるのに、長く話していると支離滅裂になるとか、日によって理解度が大幅に異なるなどその症状もいろいろです。ただ介護の負担が大きいので離婚したいというのでは離婚は認められません。
(2)認知症が加齢によるものであって「強度の精神病」ということについては疑問があります。しかし、病状によっては、「婚姻を」継続し難い重大な事由」に該当すると思われます。裁判例としても、かなり進行したアルツハイマー型認知症にかかっている妻との離婚請求について、「民法770条1項4号の該当には疑問があるが、同5号に該当する」とされた事例があります。
(3)民法770条1項5号の「婚姻を継続し難い重大な事由」には該当するとしても、それだけでは、軽々に離婚を認めないのは、精神病に罹患した病者との離婚と同様です。妻がアルツハイマー型認知症に罹患した事案で離婚を認めたケースでは「長期間にわたり夫婦間の協力を全く果たせず夫が見舞いを続けていること、離婚すれば特別養護老人ホームの費用は全額公費負担になること」を理由としています。
(4)したがって、認知症の配偶者に対する離婚請求は、その老人性痴呆症が精神的な交流ができないほど進行しており、その配偶者に対し、誠実に介護を行ってきているという実績があり、かつ、公的支援制度についても十分調べて介護を必要とする配偶者の生活が成り立つように手当てすれば認められるでしょう。
(5)相手方配偶者が重度の認知症の場合、心神喪失の常況にあると思われますので、離婚手続きは訴訟で行います。このような配偶者を相手に離婚訴訟を起こす場合には、まず、成年後見人選任の申立をして成年後見人を選任して、その成年後見人を相手に離婚訴訟を提起することになります。
また、夫婦の一方が他方の成年後見人に選任されることが多いので、離婚を請求する者が成年後見人に就任していた場合、離婚訴訟の被告は成年後見監督人となります。
いずれにしても現代社会が抱える高齢社会ならではの問題(リンク)と言えます。