Q (DVと離婚)夫が私に暴力をふるいます。離婚できますか。夫の暴力から逃れるにはどうしたらよいですか。子どももいます。
①配偶者からの暴力は「婚姻を継続し難い重大な事由」として離婚原因となります。
②暴力を受けた場合、慰謝料は離婚慰謝料とは別に請求することができます。
③DV法による「配偶者暴力相談支援センター」に相談してから夫から逃げることを考えましょう。
④子どもの学校については住民異動届をしなくても、仮入学の方法があります。
〔解説〕
(1)民法には、配偶者の暴力を離婚原因とする明文の規定はありません。しかし、民法770条1項5号の「婚姻を継続し難い重大な事由」として離婚原因となることについては異論がありません。身体的暴力は人格を否定するものであって、決して容認できることではありません。暴言についても人格を否定することでは同様であり離婚原因となります。
(2)夫婦間の暴力が「離婚原因」を形成するだけでなく、不法行為となることはもちろんです。したがって、配偶者の暴力によって婚姻関係が破綻した場合、被害を受けた配偶者は離婚慰謝料を請求することができるとともに、離婚慰謝料とは別に暴力によって受けた慰謝料及びその他の損害も請求することができます。夫の暴力により妻が椎間板ヘルニアになった事案について、離婚慰謝料とは別に、暴力により受けた損害の賠償(慰謝料を含む)を認めたものがあります。
(3)夫婦間の暴力については、家庭内のことなので、通常目撃者もいないし、双方でまったく異なった主張となることが多く見られます。したがって、配偶者から暴力を受けた被害配偶者は、その時点では離婚を考えていないにしても、将来どのようなことがあるかわからないので、医者に怪我の原因を正直にいって診断書をもらっておく、あざができれば写真を撮っておく程度のことはしておいたほうがよいでしょう。
(4)暴力夫から逃げようにもお金もなく住む場所もない状態ではどこにも行けません。身体的暴力を受け続けているうちに逃げることすら諦め、精神的にも暴力に支配され、いつの間にか暴力に隷属する歪んだ性向が妻の側にも生まれてしまうという痛ましい事態が生じていました。人権擁護と男女平等の見地から、こような配偶者を救済するために「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」(いわゆるDV法)が制定されました。
(5)DV法の柱は、①「配偶者暴力相談支援センター」の設立、②保護命令の規定です。①の設立目的は、配偶者から暴力を受けている被害者及び家族に対して、このセンターにおいて、一時保護、心理学的な指導をすることであり、②の規定により、被害配偶者の申立により、裁判所が加害配偶者に対し、被害配偶者につきまとったり、住居、勤務先等の近くを徘徊することを禁止する接近禁止命令、自宅から出て行くよう命ずる退去命令を発することができるようになりました。
(6)暴力が激しい夫から逃げてきた場合、住民票を移すと夫に所在地がわかってしまう危険性がありますが、このとき、実際居住している地域の役所に相談すると、子どもの学校の仮入学手続きなどの方法も教えてくれますので、臆せず相談に行きましょう。