Q私が保険契約者兼被保険者となっている生命保険契約の死亡保険金の受取人を,妻からいつも世話になっている私の妹に変更したいと思っています。私が生きているうちに受取人の変更をすると妻がうるさいので,遺言によって変更したいと思いますが,可能でしょうか。---遺言解決は,むさしの森法律事務所へ
遺言によって保険金受取人の変更が可能であることが明文で定められました(保険法44条1項)。
ただし,保険法では,保険会社の二重払い防止の観点から,保険会社に対する受取人変更の対抗要件として,
遺言の効力発生後,保険契約者の相続人から保険会社に対する通知が必要であるとされています(保険法44条2項)。
1 保険法44条1項では,遺言の効力として保険金受取人の変更が認められることから,
①民法が定める遺言の方式の要件(民法960条,967条など),②遺言の撤回(民法1022条)や,前の遺言内容と抵触する遺言や生前処分(民法1023条)がなされていないことが必要です。
また,当然ことながら,遺言で,保険契約者(遺言者)に保険金受取人変更の意思が認められる必要があります。
すなわち,「全財産を遺贈する」,「生命保険契約を相続させる」といった記載では,一般的には,保険金受取人変更の意思表示とは認められませんので,
遺言書には,保険金受取人変更の対象となる保険契約を特定のうえ,「保険金の受取人を何某に変更する」という保険金受取人変更の文言を明確に記載する必要があります。
2 保険金受取人変更の対抗要件たる通知は,保険契約者の相続人の1人が保険会社に通知を行えば足り,相続人全員が共同して通知を行う必要はないものとされています。
また,遺言執行者も本通知を行うことが可能です(民法1012条1項,1015条)。
この点,旧受取人が相続人である場合,相続人から,親受取人への保険金受取人の変更の対抗要件具備のための通知を期待できないのではないか,という問題があります。
すなわち,相続人が保険会社に通知をしないことにより,親受取人が対抗要件を具備できず,保険会社が旧受取人へ保険金を支払った場合,新受取人から旧受取人に対して不当利得返還請求をすることになります。
3 こうした状況を避けるためには,遺言書の中で相続人でない者を遺言執行者に指定するなどして,遺言執行者からの通知により対抗要件を具備させる方策を用意しておくという方法が考えられます。