愛する人,大切な人を亡くして悲しみにうちひしがれているときに,その亡くなった方の財産問題についてまで考えている余裕がないかもしれません。でも,そういう時こそ,専門家である弁護士の力が必要ですし,役に立ちます。
相続とは
相続とは,被相続人が死亡することにより,一定の親族関係にある者が被相続人の財産に属する一切の権利義務を承継することをいいます。承継とは,引き継ぐことです。
相続によって,現金や不動産などのプラスの財産だけではなく借金などのマイナスの財産も含めて一切合切が承継されることになります。
相続は,被相続人が亡くなったときに生じます。
相続手続きの流れ
遺言書の有無によって手続きの流れが異なります。
まず,遺言書がある場合,原則として遺言の内容に従って財産が相続されます。
次に,遺言がない場合,民法が定めたルールに従って相続されます(法定相続)。すなわち,相続人がいれば,相続人間で遺産分割協議を行うことが必要です。相続人間で,遺産分割協議がまとまれば遺産分割協議書を作成し遺産分割を行います。
なお,マイナスの財産がある場合は,限定承認や相続放棄も可能です。
相続人および相続分
では,誰が相続人になるのでしょうか。相続人については民法が定めています。
まず,①配偶者は,常に相続人となります。
配偶者以外の相続人は,以下のとおりです。
②子(直系卑属。子がすでに亡くなっている場合,孫。)
③子(直系卑属)がいない場合,親(直系尊属)
④子(直系卑属)も親(直系尊属)もいない場合兄弟姉妹
では,誰がどのくらいの割合で相続することになるのでしょうか。相続する場合の割合を相続分といいますが,相続分についても,民法が定めています(法定相続分といいます。)
法定相続分とは,相続人が複数いる場合に,法定相続によってそれぞれの相続人に相続さ れることになる相続財産の割合をいいます。
法定相続分の具体的な割合は以下のとおりです。
①配偶者と子:配偶者が2分の1,子が2分の1
②配偶者と親:配偶者が3分の2,親が3分の1
③配偶者と兄弟姉妹:配偶者が4分の3,兄弟姉妹が4分の1
相続の対象は?
相続する財産には,さまざまなものがあります。
たとえば,現金はもちろんのこと,土地・建物などの不動産,車などの動産,その他債権もあります。他方,プラスの財産だけでなく,借金や,保証債務などのマイナスの財産も引き継ぐことになります。
遺産分割協議・調停・審判
(1)遺産分割協議
遺言がない場合には相続人間で話し合って,どの遺産を誰が相続するのかを決めなければなりません。これを遺産分割協議といいます。
では,遺産分割協議には,方法や形式に決まりはあるのでしょうか。
遺産分割協議はあくまで話し合いですから,特別の形式があるわけではありません。
もっとも,遺産分割協議は,法定相続人全員で行わなければなりません。この協議が調えば,遺産分割協議書を締結します。これに基づいて不動産の名義変更など具体的な分割ができるようになります。
遺産分割協議においては,相続人の自由な意思が尊重されますので,法定相続分で相続することももちろんできますし,法定相続分とは異なる相続方法を定めることもできます。相続人全員の合意さえあれば,自由な分割方法を定められるのです。
(2)調停・審判
では,遺産分割協議がまとまらない場合はどうなるのでしょうか?
この場合,調停・審判による遺産分割を行うことになります。
調停は,調停委員の関与の下,当事者が話し合いをする制度です。
遺産分割協議との大きな違いは,話し合いがまとまった場合,その内容を調停調書に記載することで,判決と同様の効力がえられることです。
もっとも,あくまで話合いでの解決を目指す制度ですから,相続人のうち,一人でも納得がいかなければ合意に至らないということもあります。
(3)遺産分割調停が成立しない場合は?
調停が不成立になった場合には自動的に審判手続が開始されます。
審判では,家事審判官(裁判官)が,当事者の主張を聞き,証拠を吟味した上で,遺産に属する物又は権利の種類及び性質,各相続人の年齢,職業,心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して,審判をすることになります。
相続放棄・限定承認
(1)相続を受けないようにすることはできますか?
例えば,被相続人が多額の借金をしたまま死亡した場合にはどのようにしたらよいでしょうか?
相続した上で借金を返済するのも一つの方法ですが,マイナスの財産が多いのであれば,相続をしたくないと考える方もいらっしゃるでしょう。
このように被相続人が,多額の借金をしたまま死亡した場合には,相続人は,相続放棄をすることによって,相続人の地位を放棄し,相続を免れることができます。なお,相続放棄は裁判所に申述することが必要です。
また,たとえば,借金も財産も両方とも残っているけれども,その金額を把握していない場合には,「限定承認」を行うことができます。
限定承認とは,相続人が,被相続人の相続財産の限度で被相続人が残した残債務や遺贈について責任を負うにとどまるという制度です。限定承認を行うことによって,相続人は,相続財産の限度で被相続人が残した債務等について責任を負うにとどまります。したがって,相続人が,それ以上の責任を負う必要性がなくなるのです。
なお,相続放棄や限定承認をする前に,相続財産に含まれる自動車を処分してしまった場合は,民法上「単純承認」をしたものとみなされます。
この場合,無条件に被相続人の権利義務を承継することとなり,もはや相続放棄や限定承認をすることができなくなっていまいますので,気をつけなければなりません。
さらに,相続放棄や限定承認をするためには3ヶ月という短い期間の制限がありますから,速やかに決断をしなければなりません。これを熟慮期間と言います。そして,熟慮期間を過ぎてしまうと単純承認とみなされてしまいます。うっかりして単純承認とされると借金だけを負うことにもなりかねないので,この点は重要です。
寄与分・特別受益
(1)寄与分とは?
寄与分とは,農業や自営業を被相続人と相続人のうち特定の者が協力して営み,特に財産を築き上げた場合や,一部の相続人が被相続人を介護したために財産の減少を防いだ場合に,特に増加した,または減少を防いだ財産の価値をいいます。
たとえば,子の一人が,自営業を営んでいる父(相続人)を助けてその業務に携わり,父の財産が増えたような場合には,子の財政形成への特別の寄与を相続において考慮するという制度です。
まずは,寄与分については,相続人間で話し合いで決めることとなりますが,話し合いで解決しない場合には,調停や審判において決められることになります。
(2)特別受益とは?
特別受益とは,特定の相続人が,被相続人から婚姻,養子縁組のため,もしくは生計の資本として生前贈与や遺贈を受けているときの利益をいいます。
たとえば,特定の相続人が,被相続人から生前に大学の学資を出してもらったり,結婚に際して多額のお金をもらったりした場合には,何も貰っていない相続人からみると不公平になります。そこで,公平に遺産を分けるために,特別受益を受けた場合は,これを遺産の前渡しと見て持ち戻しを行った上で相続分を計算することになります。
遺留分
遺留分とは,被相続人が有していた財産の一定割合について,最低限の取り分として,一定の法定相続人に保障する制度をいいます。
つまり,被相続人が遺言によっても自由に処分できない財産であり,被相続人が相続人に対して最低限残さなくてはいけない部分です。
遺留分があるのは,被相続人のうち配偶者,子および直系尊属です。兄弟姉妹には遺留分は認められていません。
相続人(兄弟姉妹を除く)が受けた相続財産が遺留分に満たない場合には,遺留分を侵害されたことになります。遺留分を侵害された相続人はそのままでは侵害された遺留分を取り戻せません。つまり,遺留分を取り戻すには,遺留分を侵害された相続人は,遺留分減殺請求権を行使しなければなりません。遺留分減殺請求権は,相続の開始と減殺すべき贈与や遺贈があったことを知ったときから1年以内に行使しなければなりません。
私たちが力を貸します
以上,相続の手続きを外観しましたが,相続においては法律家としての弁護士の高度に専門的な知識と経験が必要になります。相続人間に争いが生じた場合だけでなく,争いがない場合であっても,私たち専門家のアドバイスなしには,手続きを進めていくことは困難といえます。
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